top of page
スライド1.jpg

​オペアンプでオーバードライブの音は変わるのか?

 みなさん、こんにちは!

みなさんの中で、オーバードライブペダルに入ってるオペアンプを変えたら音がどう変化するのだろう??って思った方はいますでしょうか?

かなりの数の方が思ったことがあると思います。

僕ももちろんそう思っていて、実は今回、その実験をしてみました!

使ったオペアンプは

 

 ・Toshiba製 TA75558(いわゆる4558と同じ)

 ・Texas Instruments製 TL072

       (J-FET入力、高スルーレート)

 ・JRC製 NJM5532(高スルーレート、高ft)

 ・JRC製 NJM4562(高ft)

 ・Texas Instruments製 RC4558

 

です。

 

結論から先に書いちゃいますね。

 

 “(ほとんど)変わりません、分かりません”

 

です。

はい、終了〜!

うそ〜!っておっしゃる方も多いでしょうけど、やっぱり変わりませんね。

(Youtubeに弾き比べた映像をアゲておりますが、何回聴いても有意差がわかりません)

こう言ってしまいますといささか乱暴ですので、もうちょっと言いますと、

 ”ハイゲインディストーションの最大ゲインなら違いが出るかも、

   ミッドゲイン〜トランスピアレント系オーバードライブなどはほぼ判らない!

です。

では、それを今からご説明しましょう。

今回実際にオペアンプをいろいろ載せ替えて実験してみましたが、その条件を確認しておきましょう。

オーバードライブサウンドを作る増幅器(アンプ)はオペアンプを使った負帰還アンプだとします。

ダイオードクリップは使用しません。

​(上側の図に簡易回路図あり。1MΩと2kΩの抵抗、 0.1uFのコンデンサの接続が負帰還と言われる技術です)

ダイオードクリップを使用しないので、アンプ部の出力は少なくとも±3V以上振れることができます。

 

増幅度(歪み)を決める要素はコンデンサ:0.1μF、2kΩの抵抗、そしてゲインツマミを回せば抵抗値が変化するボリュームポット:1MΩとします。

ゲインを上げる場合は0Ω⇨1MΩと抵抗値が大きくなるようにします。

 ※コンデンサ:0.1μFは100Hzで〜16kΩ、10kHzで160​Ωになります

この条件ですと、最大ゲインは10kHzで463倍:53dBです。

かなりハイゲインの部類です。

 

ここで、オペアンプを使った増幅回路の動作を説明します。

まず上側の図を見てください。

縦軸にゲイン(dB)、横軸に周波数(Hz)を採ったグラフがありますよね。

これがオペアンプがもつ元々の増幅度の周波数特性図です。

ブルーと黒の2本の右肩下がりの線がありますが、ブルーのほうがft(遮断周波数):3MHz、黒のほうが10MHzです。

この3MHzのものが4558というオペアンプで、10MHzのものが4559というオペアンプです。

このftは、アンプが増幅能力をなくす(1倍になる)周波数のことで、このftが高ければ高いほど高い周波数まで増幅することができます。

よって4559の方がより高い周波数まで増幅能力がある、ということになります。

そしてこれら2本の線は、左側の1Hzで110dBになっているのが分かると思います。

これは、アンプが1Hz(ブルー:〜10Hzまで、黒:〜30Hzまで)で110dB(31.6万倍)の増幅度を持っている、ということを示しています。

どうですか、みなさん。

31.6万倍ですよ!!

すごいですよね?!!

そしてオペアンプは10Hz、または30Hzくらいから、その増幅度(ゲイン)が周波数が高くなるにつれて下がっていきます(周波数が高くなるにつれて元気がなくなるイメージ)。

​このゲインが下がり始める周波数をBreak Point(またはカットオフ周波数)と言います。

 

しかし今回は“負帰還”という技術を使っていますので、最大でも1000倍(60dB)程度にゲインが下がるんです。

 (下で説明します)

なぜ、せっかく32万倍ほども増幅度があるのに、それを1000倍以下に下げちゃうのでしょうか?

ここが負帰還の真骨頂です。

わざわざゲインを下げるのは、

 

 ・アンプのゲインの変動を抑える

 ・アンプのゲインのノンリニアリティを抑える

 ・周波数特性を伸ばす

 ・外乱を抑え込む

 

という効果が負帰還にはあるからなんです。

もともと負帰還という技術は増幅動作の歪みを抑え、周波数特性を伸ばし、外乱ノイズを抑え込む必要がある

オーディオ回路などに使われる技術なんですね。

フリーランチがないのと同じで、こういう改善効果を得ようとするとゲインを犠牲にしなくてはいけないんです。

 

このように負帰還をかけると、上の図の”Drive:40dB”や“Drive:60dB”と書かれた横線までゲインが下がります。

(ちなみに40dBは100倍、60dBは1000倍のことです)

なぜゲインが下がるのかと言いますと、一番上の簡易回路図のように抵抗やコンデンサを使って負帰還を

​かけると、増幅器のゲインは基本的に”負帰還に使っている抵抗、コンデンサの値で決まる”からなんです。

これはオペアンプの教科書か何かで勉強していただくしかないのですが、ざっくり書くとゲインは

 G=(1MΩ +  (2kΩ + Zc)) ÷  (2kΩ+Zc)

 

          Zc : 0.1uFの各周波数におけるインピーダンス

となります。

上に示したように、0.1uFのコンデンサは10kHzで160Ωです。

なので、この増幅器の10kHzにおけるMaxゲインは(1MΩ +  (2kΩ + 160)) ÷  (2kΩ+160)=463倍(~53dB)

となります。

同様に計算すると、100Hzのゲインは56倍(35dB)となります。

かなり下がりますね!

このようにコンデンサを含んだ負帰還回路では周波数によってゲインが変わりますので、ちょっとややこしいです。。。

なので、以下ではコンデンサはなく、抵抗だけでゲインが決まる回路と仮定しましょう。

この場合、例えば上の周波数特性の図において、60dB(1000倍)のゲイン:ピンクの横線は、それがもともとのオペアンプの周波数特性とクロスするポイント、

 4558 :2.5kHz

    4556  : 8kHz

まで保たれ、クロスした後は元々のオペアンプの特性に従う、つまり周波数が高くなるにつれゲインが下がっていきます。

負帰還という技術を使うとオペアンプを使った増幅器はこのような動作をします。

思い出すと、もともとは、上記のようにBreak Pointはブルー:〜10Hzまで、黒:〜30Hzまででしたよね??

それがグラフの下の方に書かれているBreak Pointまで伸びるんです(2.5kHz、8kHz@60dB)。

これは、この周波数までならアンプは一定の増幅度でギターの信号を増幅します、それより高い周波数は増幅度が徐々に落ちていきます、ということを意味しています。

かなり伸びましたよね??

以上から考えると、負帰還を使った増幅器では、高い周波数まではゲインは一定だということです。

なので、このオペアンプはミッドが強い、とかボトムが出るなどという現象はあり得ないのです。

以上で今回実験に使うアンプの説明が終わりました。

このアンプは市販のオーバードライブペダルに普通に使われている回路で、別段特殊なものではありません。

 

さて、これから実験結果の説明をしようと思うのですが、そもそも音が変わるって物理的にどういうことなんでしょうか?

もちろん、オペアンプを変えて増幅度がガラっと変わると(例えば60dBから40dBにダウン)明らかに歪み具合が変わりますよね??

しかし今回は、回路や負帰還の性質上、(低周波の)増幅度自体が変化することはないですので、それは考えないことにします(あり得ない!)。

では何が音質を変えるのでしょうか?

 

ギタリストのみなさんがよく知っている言葉を使えば“トーン”ですね。

例えば5弦の開放をビ〜ンと鳴らしたとしましょう。

皆さんよくご存知の通り、5弦は440Hzです。

しかし!

ギターの信号などは440Hzだけでなく、その整数倍の周波数成分がたくさん含まれており、それがいわゆるハーモニクスというやつなんですね。

例えば5弦開放なら、440Hzを1とした場合、880Hzが0.3含まれて、1320Hzが0.1含まれて・・・

みたいに基音である440Hzのハーモニクスがいろいろな大きさで含まれてるんです。

実はオーバードライブさせた音というのは、これらハーモニクスの成分が大きく増幅されてアノ音になる場合が多いんですね。

音が変わるというのはこれらのハーモニクスの成分が変わるということなんですよ。

(ギターアンプのBass/Middle/Trebleは、もちろんギターの低音弦、高音弦の音そのものに対して働くのですが、一方でハーモニクスを変える回路でもあるんですね)

あと、オペアンプにはスルーレート(SR)という特性があります。

これは一般的に、オペアンプの出力電圧が1μS(0.000001秒)という短い時間に何V(ボルト)変化することができるか?を表す指標なんです。

たとえば1V/μSと10V/μSのオペアンプがあったとすると、後者は1μSという短い時間の間に10Vも出力を変化させることができるんです。

要するに、オペアンプのスピードを示す指標と考えてOKです。

このスルーレートについて考えてみましょう。

たとえば10kHz、±1Vのギター信号があったとします。

10kHzというと信号の1周期(信号が中央から上昇〜中央より下降して元に戻る時間)は100μSです。

なので、大雑把に考えると、100μSの1/4である25μSで信号のピークである1Vに達します。

しかし!

オペアンプのSRが50V/μSだとすると、上記の10kHzの信号には増幅動作が追いつかないんです・・。

すると、音が歪んだりしてしまうんですね。

​その結果、トーンが変わってしまいます。

ということで、トーンを変えると考えられる1番の要素はアンプの周波数特性とスルーレートということでいいと思います。

 

これらを踏まえて、今からトーンの変化を考えていきましょう。

まずSRから考えます。

下側の図を見てください。

今回使ったオペアンプで一番SRが悪いのが4558で、1V/μSなんですね。

ではこの数値はトーンを変化させるような値なのでしょうか?

人間の聞こえる音の限界周波数ってご存知ですか??

はい、だいたい20kHzです。

(ちなみに僕は12kHzくらいが限界ですが!)

ではこの20kHzというのはどれくらいの時間で変化する信号なのでしょうか?

答えは50μSで信号が上がって下がって戻ります。

単純に考えて、50μSの1/4で信号がピークに達するとすると、12.5μSがその時間に相当します。

例えばガツっと歪ませたギター信号が3V変化するとしますと、1V/μSのSRをもつオペアンプは3μSかかることになります。

これは、先の12.5μSとくらべてさほど遅いスピードではないですよね?

ちょっと微妙ではありますが、そもそも20kHzの音なんてあまり聞こえてないですので、全然問題にはならないでしょう。

20kHzより低い周波数の信号は、その立ち上がり時間が遅くなっていますから、1V/μSのSRでさらに余裕になってきます。

人間が判別できる10kHzですと、25μSで信号が最大値に達しますが、これに対して3μSはほとんどインパクトはないと思います。

スルーレートは高音や高い周波数のハーモニクスに影響を与えますが、以上より今回使った一般的にペダルに使われているオペアンプでは気にしなくてもいいと思います。

なので、ギターの音のトーンをスルーレートという性能が左右するかというと・・・・まあ、ほとんどしないでしょうね。

ということで、オペアンプの音を変える要因としてSRはとりあえず除外してもいいでしょう。

ということで、残るは周波数特性です。

ここで再度、上側の図を見てみましょう。

たとえば、ゲインツマミをかなり絞って40dBの増幅度とします(クランチって感じでしょうか)。

Drive:40dBと書かれた横線を見ていただきますと、低周波(1Hz)から30kHz以上までず〜っと40dBのままです。

ということは、人間の聴力の限界以上の周波数まで増幅度は変わらない(フラット)ということになります。

オペアンプによってft(遮断周波数)が3MHz〜10MHzと差がありますが、図のように、3MHzでも10MHzでも

どちらも人間の聴力限界以上までフラットな増幅度なんですね。

ようするに、どのオペアンプを使っても変わらない(人間の限界以上)ということで、もともとギターの音に含まれているどんな可聴域のハーモニクスに対する増幅度も一定だということなんです。

よく、オペアンプを変えたら中域が膨らんだ、なんて言いますが以上の説明から、そんなことはあり得ないことがわかりますよね??

(オペアンプでこれなんだから、シールドケーブルなんて推して知るべし)

 

ではここでゲインをマックスの50dBまで上げてみましょう。

​(ここではガツっと歪んでいる状況と仮定します。)

ちょっと先ほどの状況から変わってますよね??

はい、50dBの横線がもともとのオペアンプの周波数特性とクロスするBreak Pointが10kHz、25kHzくらいになってます。

そのBreak Pointから増幅度が徐々に落ちるということを示しています。

ですので、このグラフのようにft(遮断周波数)が3MHzと10MHzのオペアンプを聴き比べると10kHz〜25kHzのハーモニクスに対して差が出ることになります。

では、10kHzというのはどういう音なのでしょうか?

1弦21フレットが1kHzと言われていますので、10kHzというのはその10倍のハーモニクスです。

さてここが問題。

もし、オーバードライブした信号に大きい10kHz〜25kHzのハーモニクス成分が含まれていたとしたら、図から、それが約10dB程度の差でもって聴こえると思います。

しかし、そのハーモニクスがもともと小さければ分からないでしょうね・・。

​(ハーモニクスは2倍の周波数のものはかなり含まれていますが、3倍以上ともなると1/5〜1/10くらいです)

あと、ハーモニクス成分が大きかったとしても10kHz以上の音を人間の耳が判別できるでしょうか?

ちょっと微妙ですね・・。

ゲインが60dBまで上げられれば、Break Pointが3kHz程度に下がってきますので、人間の耳にかなりはっきり聴こえてくるとは思いますが・・・。

さらに、ここではダイオードクリップを使っていない、ファッツドライブのようにアンプの出力が3V以上振れるという仮定で考察しています。

しかし、世の中のほとんどオーバードライブのようにダイオードを使っている回路であると、小さくて0.7V、大きくて2倍の1.4Vという小さい電圧の中でハーモニクス成分の大小を聞き分けなければいけません。

この状況ですと、さらにオペアンプの差を判別するのは難しいと思います・・・。

(どのハーモニクスもダイオードでクリップされて頭打ちになる可能性が大きい)

また、ダイオードを使っていないオーバードライブでも、ギター信号が大きい場合、またはめちゃくちゃハイゲインなディストーションなどガッツリ歪んでいる、つまりアンプ部でギター信号が電源、またはグランド(GND)まで到達して潰れてしまっている場合(負帰還が働いていない状況)は、どのオペアンプでもギター信号波形が頭打ちしているという波形に変わりはありませんので、オペアンプ間の差は分からないと思います。

さて、ここまでの説明では高域(高音)に着目していましたが、低音はどうでしょうか?

実は以上では、低域から10kHzくらいまでのゲインはフラットとしてお話をしてきましたが、実は増幅度を決めるコンデンサ:0.1μFが周波数によってインピーダンスが変わるんですね。

結果を言ってしまうと低域(低音弦)側のゲインを下げます。

どういうことかと言いますと、周波数特性(ゲイン)が低域から高域になるにつれて上がっていき、Break Pointで下がっていく、という波形になるということです(台形っぽくなる)。

しかし、低域ゲインがコンデンサによって下がったとしても、1Hz〜数MHzという範囲でオペアンプは高いゲイン(〜110dB)を持っており、負帰還の原理から、オペアンプを変えても低域のゲイン差は出ないと言えます。

​(コンデンサによる低域ゲインの下がり方がどのオペアンプを使っても不変)

よって、コンデンサに起因する低域(低音弦)の音の差はないと判断します。

 

ということで、オペアンプを変えた場合、ゲインマックスという設定であれば、高音に若干差が出るかもしれない。

それより低い周波数(〜10kHzまで)は変わらない、という結論ですね。

耳のいい人は判るかも??という感じでしょうかね。

 

間違っても低域〜ミドルは変わりません!

音が太くなったなんて感じたらすぐ病院にいきましょう!

スライド2.jpg
bottom of page