
オペアンプを使ったオーバードライブの増幅回路
【 オペアンプを使ったオーバードライブの増幅回路 】
みなさん、こんにちは。
久々のテクニカルトピックス新規投稿です!
きょうはみなさんがよくご存知のオペアンプ:4558などを使ったオーバードライブの増幅回路について
解説して見たいと思います。
オーバードライブの増幅回路には下側の図のような“非反転増幅回路”がよ〜く使われています。
その回路図の中の三角形のモノが4558などのオペアンプなんですね。
オペアンプってなんぞや?と言いますと、上側の図にありますように、プラス/マイナスの二つの入力を
持った増幅回路で、例えばマイナス端子に対してプラス端子にプラスの電圧を印加(入力)しますと、
それが10万倍とか100万倍になって高い電圧(プラス側)出力されると言う、めちゃくちゃゲインが
大きい増幅機(アンプ)なんですね。
逆に、マイナス端子に対してプラス端子をマイナス電位にすると、それが同じように10万〜100万倍になって
低い電圧(マイナス側)に出力されるんです。
しかし、こういう風にオペアンプを使うと、ギターの信号がちょっとでも入ると、
出力がドカーンと電源側、またはGND側に出てしまい、それはそれはハードディストーションに
なってしまうでしょう。
ピッキングのニュアンスなんてあったもんじゃないです!
そこで、上側図の左下にあるように、オペアンプは出力とマイナス端子を直接、または間接的に接続して
使うんですね。
図は直接、接続した場合です。
この時、プラス端子にプラス電圧が印可されるとオペアンプの出力は電源側にドカーンと上がろうとします。
しかし出力がマイナス端子に接続されてますから、マイナス端子も出力と一緒に電源側(プラス側)に上昇し、
その効果で出力を下げようとします。
結局、このようにオペアンプを使った場合はプラス端子とマイナス端子が同じ電圧になるように動き、
これをバーチャルショート(仮想的なショート)と言います。
しかし、厳密にはオペアンプに出力される電圧÷10万〜100万の微小な差が生じます。
以上のオペアンプの基本であるバーチャルショートをよく覚えておいてください。
では下側の図の、実際のオーバードライブに用いられる回路に移りましょう。
この回路も、抵抗R1を介して出力とマイナス端子が接続されています。
そして、この場合もバーチャルショートになるんです。
もし、プラス端子にプラスのギター信号(ΔVin)が入力されたとしますと、
バーチャルショートによってマイナス端子もΔVinだけ上昇します。
この時、ギターの信号がない場合からΔVin÷(R2+Zc)の電流:i1が流れます。
これはV=IRのオームの法則から、I=V÷Rですよね。
この時、この電流:i1はどこから流れてくるのでしょうか??
答えは、この場合はオペアンプの出力から抵抗R1を介して流れてくるんですね。
すると、抵抗R1に電流:i1が流れるわけですから、ここ(R1の両端)にもオームの法則V=IRによって
電圧が発生しますよね。
結局それが出力信号:Voになり、Vo=ΔVin÷(R2+Zc)×R1となります。
このVoはマイナス端子の電圧、つまり入力信号に対してプラス側に加算される形で現れます。
また、ギター信号がマイナスの場合(ーΔVin)の場合は、出力は入力に対してマイナス側に現れます。
この時ゲインがR1÷(R2+Zc)になりますので、R1を(R2+Zc)より大きい値にしておけば小さい入力が
大きくなって出てくるわけです。
なぜ抵抗R2だけではなく、コンデンサCを直列に入れるのでしょうか?
実はコンデンサは、その抵抗値(正確にはインピーダンス)が低周波では高く、高周波では低いと言う
性質を持っていますので、ギターの6弦(低周波)をに対しては抵抗値が高く、1弦(高周波)に対しては
抵抗値が低くなります。
よって、低周波を増幅させないで、より高周波を増幅するようにしているんですね。
低周波を増幅(オーバードライブ)させると、音がボンついちゃうからでしょうね。
以上が一般的なオーバードライブの増幅回路です。
現在のオーバードライブはオペアンプの出力やR1に並列にダイオードを接続して、出力電圧を〜0.7Vで
無理やり止めて(クリップ、スライスして)います。
このようにオーバードライブとは言っても割とハードにディストーションさせているんですね。
この回路動作を見て、オペアンプを変えると音が変わるのか?は皆さんで考えてみてください!
アンプ、エフェクターの年代比較
【 アンプ、エフェクターの年代比較 】
みなさん、こんにちは。
僕が愛読している雑誌(ムック本?)のエフェクターブックVol.39“チューブスクリーマー特集”に面白い記事がありました。
エフェクターブランド“ウェイフュージ(Way Huge)”のエンジニアに雑誌の記者が聞きます。
記者“チューブスクリーマーのヴィンテージと現行品にどのような違いがあると思いますか?”
WHエンジニア“同じ、同じ(笑)”
このエンジニアさん、電気や電子機器のことをよ〜く知ってますね。
正しい意見だと思います。
よくアンプやエフェクターで、何年製のは音がトレブリーで、それに比べて何年製のはミッドが強い、なんて言いますよね?
これって本当なのでしょうか??
こういう比較に意味はあるのでしょうか??
アンプやエフェクターはたくさんの電子部品からなっています。
そしてそれら電子部品は同じ工場、同じプロセスで製造してもある程度の性能のバラツキがあって、メーカーは、この範囲のバラツキであれば正常品だというスペックを決め、出荷テストをして電子部品を世に出してます。
なので、アンプやエフェクターも、同じ工場で同じ回路のモノを作ったとしても、どうしても音にバラツキが出てしまうんですよね。
アンプやエフェクターはたくさんの電子部品を使ってますよね??
その数多くの部品がそれぞれバラツくので、最終製品のアンプやエフェクターも・・・・
推して知るべしです。
オペアンプの中身は半導体チップです。
そのチップももちろん製造バラツキがあり、とある性能はスペックが厳しく、もう一つの性能は
結構バラついても正常品扱いする、なんてよくあることなんですね。
半導体はウェハと呼ばれるシリコンの丸い板になっていて、その1枚の板からチップが何万個と取れます。
その同じ1枚の中から取れたチップでもバラツキがありますし、製造時期の違うもの、つまり
ロットが違うものであればさらにバラツくこともありえるんですね。
ということを考えると、(オペアンプの性能ばらつきで音に差が出ると仮定して)同じ年代のアンプ、エフェクターでも当然音がバラつきますから、例えば1990年製のエフェクター1台と1980年製のエフェクター1台を比較しても意味がないことはお分かりかと思います。
1990年、1965年に作られたエフェクターの1000台にまったく音のバラツキがないならそれらの比較に意味はあるでしょうけど・・。
しかし、比較もやり方によっては意味を見出すこともできるんですね。
例えば年代の違うチューブスクリーマーの音を比較したいとしたら、それぞれの年代のものを
100台くらいずつ試奏して音、たとえばトレブルのキツさなどがどれくらいバラついているか分布を調べるんです。
もし、とある年台のTSともう一つの年代のTSの音の分布が最初の図の一番上のようになっていれば比較可能です。
年代によってある程度音の差がはっきりしてますから。
しかし、真ん中の図のようにとある年代のTSともう一つの年代のTSの音の分布に重なる部分が
あれば、その部分はどちらの年代のものなのか見分けがつかないですよね??
こうなると比較は難しいでしょう。
そして、ありがちなのが、二つの年代のTSが実は一つの分布の中に属していて、たまたま選んだ
2台がその分布の端と端のモノだった場合です。
このケースだと何年のTSがトレブリーで何年のTSはミッドが強いなんて断定するのはもはや
ナンセンスですよね。
その前に、同じ製造年のモノの分布の端と端でも音が違うこともあるでしょうしね。
僕がそういう年代比較の記事を読んでいつも思うのは、それらを一体何台試したの??ってこと
なんですよ。
統計学的にバラツキの分布(ガウス分布)を描くためには最低でも数十台は試しさないとダメでしょう。
それを1台ずつの試奏で比較してたりすると意味なんてないんですよね。
僕が設計しているICも試作品はもちろん複数個〜大量に評価して分布を把握し、性能を見極め
ます。
たとえば1個の試作品だけ評価して性能OKなんて判断すると、それがたまたま分布の中のいい
性能のモノをチョイスしてしまっただけかもしれませんので!
そしてもう一つ。
TSに使われているオペアンプ:4558も“マレーシアンチップ”なんて言ってバカ高い値段で売られてたりしますよね。
オペアンプを変えてミッドが変わったなんて言ってる人がいますけど、オペアンプで変わるのはせいぜい高域だけでしょう。
もし電気的に特性を測定してミッドが強かったら大問題です!!
まともな帰還アンプじゃありません!
トレブル(ハイ)は多少変わるかもしれませんが、低域(ロー)〜中域(ミッド)はオペアンプに帰還をかけて使うぶんには変わりません。
下側の図は4558っぽいオペアンプの回路を作って、それに負帰還をかけて増幅器を作り、
シミュレーションした結果ですが、グリーンのラインがドライブ大小の通常バージョン、
赤いラインが製造バラツキとしてオペアンプに流れる電流が運悪く半分になってしまった
バージョンです。
どうですか?
低域〜中域が変わってますか??
高域は多少変わってますが、ロー〜ミッドは変わってないですよね??
全ての電気エンジニアが知っている格言があります。
“電気はウソをつかない”
つまり、電気は徹底的に理論に沿って振る舞うということです。
アンプやエフェクターの中を流れる電気もウソはつきません!